ある晩、著者のもとに一通のメッセージが届く。
「APDで悩む当事者たちのことを書いてくれませんか?」
聴力には異常がないにもかかわらず、うるさい場所や複数人が集まる場などでは相手の言葉が聞き取れなくなってしまう――。「APD/LiD」と呼ばれ近年注目を集める、この目に見えない困難について、自身もマイノリティ経験を持つ著者が当事者や支援者、研究者やメディア等へ丁寧な聴き取りを行い、「誰一人取り残さない社会」の実現に向けて社会に求められる変化を問う。渾身のノンフィクション。
【著者について】
五十嵐大(いがらし・だい)
1983年、宮城県出身。元ヤクザの祖父、宗教信者の祖母、耳の聴こえない両親のもとで育つ。高校卒業後上京し、ライター業界へ。2015年よりフリーライターとして活躍。著書に、家族との複雑な関係を描いたエッセイ『しくじり家族』(CCCメディアハウス)、コーダとしての体験を綴った『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬舎)など。2022年、『エフィラは泳ぎ出せない』(東京創元社)で小説家デビュー。Twitter:@daigarashi
【目次】
第一章 聞こえるのに、聞き取れない
第二章 治療法がないなかで
第三章 「名前がつく」ということ
第四章 社会に働きかける当事者
第五章 当事者の隣で
【APDとは】
聴力に問題はないにもかかわらず、特定の状況下で聞き取れなくなってしまう困難のこと。Auditory Processing Disorderの略称であり、日本語では「聴覚情報処理障害」と訳される。 APDを理由に人間関係が壊れたり、仕事を辞めざる得ない状況にまで追い込まれてしまったりする当事者は多いが、国内での認知はまだ低く、その訴えはなかなか理解されない。近年では「聞き取り困難(症)」を意味するLiDと呼ばれることもある。
第一章 聞こえるのに、聞き取れない
「自分が悪いんやな」と思っていた/失われていく居場所/うちの子を障害者にしないで/障害って、なんだろう/etc
第二章 治療法がないなかで
感じの悪い美容師/子どもには同じ思いをさせたくない/研究者の葛藤/APD児を育てる親の会/「配慮」があれば、それでよいのか?/両親は死んだと思っていた/etc
第三章 「名前がつく」ということ
ぼくの世界がひらけたとき/布団のなかでひとり泣いた日/保護者への手紙/社会って、あんまりやさしくない/etc
第四章 社会に働きかける当事者
「共感」だけで終わらせたくない/ユーチューバーになったわけ/出版社から声がかかるまで/当事者のジレンマ/etc
第五章 当事者の隣で
第一人者の20年/NHKの担当者/「あ、ごめん」はいらない/社会が変わる姿を見せていきたい/テクノロジーだけでは足りない/「障害」と「困難」