アメリカ大陸に住む、インディアンとも呼ばれるネイティブ・アメリカンの人々は、その昔ベーリング海峡が陸続きたっだころベーリング陸橋をわたり、アジア大陸へ渡ってきたモンゴロイドの子孫だという説が定着しつつある。「一万年の旅路」は、ネイティブアメリカンのイロコイ族に伝わる口承史であり、物語ははるか一万年以上も前、一族が長らく定住していたアジアの地を旅立つ所から始まる。彼らがベーリング陸橋を超え北米大陸にわたり、五大湖のほとりに永住の地を見つけるまでの出来事が緻密に描写され、定説を裏付ける証言となっている。イロコイ族の系譜をひく著者ポーラ・アンダーウッドは、この遺産を継承し、それを次世代に引き継ぐ責任を自ら負い、ネイティブ・アメリカンの知恵を人類共通の財産とするべく英訳出版に踏み切った。
この本をはじめて手にしたときも、それから二年半ほどたって邦訳を終えたいまも、不思議な胸騒ぎがする。ひょっとしたら途方もないものに出会っているのではないかという驚きと、ありうるはずがないという疑い―その二つが入り混じって、なぜか心臓が高鳴るのだ。
―星川淳「訳者あとがき」より
はしがき
はじめに
一つめの主な語り
二つめの主な語り
山の語り三つ
草の大海
はじめの民の子――学びへの多くの道
われらが美しいと名づける川
東の大海
美しい湖
補遺
訳者あとがき
ケイ さん
2019-05-05
先住民という言葉を これからは意識して使おう。インディアン達が居留地に向かうための歩みではなく、アフリカから出発してユーラシア大陸を横切り、ベーリング海を越え、北米大陸に来て、その中で移動し、暮らしていく物語だ。考古学的裏付けがある訳ではないが、白人社会の生き方に自分たちも合わせていこうかと話し合ったイロコイから離れ、一族の歴史をなくすまいと決心した1人の女性が残そうとした長いお話だ。彼ら自身も移住者なのだという根拠にされたくないために こういった話があまり語られないのもよくわかる。一気読み。
Gotoran さん
2015-06-27
ネイティヴ・アメリカン[イロコイ族]の血を引き、代々伝わる口承史[一万年の旅路]の継承者(著者)が書籍化したもの。一万年間語り継がれたモンゴロイドの大いなる旅路:一万年前「歩く民」(イロコイ族)がアジアの定住地を旅立ちベーリング陸橋を渡り、五大湖畔に永住地見つけるまでの壮大な叙事詩。その過程では群れの中の個の尊重、他先住民との共存の模索、リーダーシップ等々のエピソードが語られる。人、生き物、大地との繋がり、人間の叡智を感じた。興味深々で、惹き込まれる一気に読んでしまった。
ころこ さん
2019-02-02
ずっと前から読もうと手元に置いておいて最近気づいたのは、アメリカ人がどの様な歴史に回帰していこうとしているかという背景が『サピエンス全史』とそっくりだということです。固有名が徹底的に排除されているため、本書は読み辛いですし、頭に残りません。タイトルからして固有名排除ですし、<>で表現されている恐らく神(多神教のような世界観やおとぎ話のようなエピソードは古事記と似ています)と思われる存在も比喩で表現されています。「歩く民」というのも含めて口承全体が比喩表現で、彼らが辿った旅路も時間のことなのかも知れません。