今回、主に紹介するのは、初版刊行から時間の経過に淘汰されずに人気を集め続け、ロングセラーとなっている翔泳社のビジネス書です。問題を認識し解決策を探るための本や、社内で改革を起こそうとする人に役立つ本、これから新たにビジネスを興そうとする時に役立つ本を紹介します。付け合わせに、やや「ビジネス書」からは離れますが、視野が広がり、ビジネス観とよい化学変化が起こりそうなタイトルも取り上げます。
業界をリードする大企業がある種の市場や技術の変化に直面したとき、論理的で正しい経営判断を下したにも関わらず、そのリーダーシップを失ってしまう…。本書は、この原因を解き明かし、対処のための実践的な枠組みを紹介しています。
原書の“The Innovator’s Dilemma”は、ハーバード・ビジネススクール出版から刊行されるなり、アメリカで大ベストセラーとなった書籍です。過去の事例を丁寧に分析し、その中から一般的な法則を洗い出し、さらに実際の経営に活かせる枠組みにまで落とし込んで紹介する本書からは、経営判断のための新たな知見が得られるだけでなく、ハーバード・ビジネススクールの教室の席に座って、まさに講義に参加しているような知的興奮も得られます。トップマネジメントが抱える課題とその解決に当たるための思考方法が学び取れます。
競合他社と真に差別化するために、企業には常に新たなイノベーションが求められます。かつての画期的な発明も、時が経つと一般化してしまい、競争力を失ってしまうからです。「もうイノベーションの余地はないのでは」と考えがちですが、イノベーションはいかなるときでも追求可能であると著者は述べます。本書ではイノベーションを14種類に分類し、各々の企業がどのように判断して、どのイノベーションのベクトルに照準を定めるべきか、助言を与えています。「とりあえず大盛りにしてみたら?」というようなうわべだけの差別化ではなく、競合を選択肢に入れさせない真の差別化を実現し続けるヒントが見つかります。
リーダーには、注目を集めるヒーロー的なリーダーの他に、現実的に考え行動する静かなリーダーもいると筆者は言います。確かに、静かなリーダーは魅力に欠けますが、実践的な対処方法がこのリーダーシップから学ぶことができます。例えば、ヒーローは怪獣を倒して美女を助けるかもしれませんが、脇ではビルが何棟も壊れています。一方で、現実主義者の静かなリーダーは、極力ビルが壊れないように配慮したアプローチを実施しようとします。ビジネスの上で、ありがたいリーダーがどちらであるかは一目瞭然です。本書は、組織の意向と個人の欲求の間に挟まれながらも、あくまで現実を見据えて日常の難題を処理する、実践的な方法を提示しています。
本書は、ネイティブ・アメリカンのある一族に、一万年もの間、代々伝えられてきた口承史を書き起こしたものです。一族はアジアを旅立ち、ベーリング陸橋を越え、五大湖のほとりに永住の地を見つけます。この間、様々な出来事に直面した一族がどのように考え、どのような学びを得たのか、さながら聖書の物語のようにまとめられています。ここに蓄積された知恵は、多くの示唆に富んでおり、全人類の知恵とも言えます。
昔から語り部の役割は、一族が大きな転機にさしかかったとき、それまでの来歴をあらためて正しく物語り、自分たちが何者なのか、どんな旅をしてきたのかを思い出させることによって、未来への適切な決定や選択を助けることなのだ…。
(本書p.535)
「企業」や「利益」といった視点を超えた、大きな視野を改めて持つことができます。
イノベーションはエキサイティングですが、それだけではお腹が空きます。本書は、テレビでもおなじみのレイチェル・クーのレシピ本、手軽にできるフランス風おうちごはんのレシピをまとめたものです。
「おうちごはん」とはいえあくまで「フランス風」ですから、日本の食文化に慣れた私たちには、「そんな食材聞いたこともない!」だとか、「本当にこれで完成なのか?!生肉だぞ!」といいたくなるレシピもあり、読後はレシピ観にイノベーションが起こること間違いなしです。たとえ作らずとも異国料理の雰囲気が楽しめる一冊ですが、見つけ難い食材をなんとか見つけてきて再現する、という楽しみ方もあるかもしれません。